一年でもっとも美しい季節

山本周五郎賞候補作と三島由紀夫賞候補作をいくつか読んでみる。町屋亮平『青が破れる』が拾いものであった。デビュー作らしい瑞々しさがあり、文藝らしいクセもあり、今後伸びていってほしいなとおもう。受賞したのは宮内悠介と佐藤多佳子。『明るい夜に出かけて』はハガキ職人が主人公の物語で、小学生の頃からずっとラジオを聞いているわたしはなんかぐっときてしまった。小学生の自分に、25年たっても伊集院のラジオ聞いてるよ、って言ってもぜったい信じないとおもうけど。

異動の内示をうける。会社は理不尽なものでいろいろおもうところはあるが、とりあえず職場がとても近くなるので、それは素直によろこんでいる。期待と不安に満ちた五月である。

青が破れる

青が破れる

 
明るい夜に出かけて

明るい夜に出かけて

 

 

どこへも向かわない気持ち

老猫が痩せてきているようだ。6月で16歳になるので、衰えてゆくのは当然のことなのだが、とはいえできるだけのことはしてあげたい。自宅にいるときは数時間おきに猫缶を少しずつあげて中腰で食べるのをじっと見ている。

荻窪の書店Titleの開店顛末が書かれた『本屋、はじめました』を読む。リブロ池袋から個人書店へ、というのは思いきった決断だとおもうが、おそらくリブロでの仕事をやりきったという気持ちと共に働く奥様があってできたことだろうなと感じる。

季節が夏に向かっていくときにいちばんうれしいのは、仕事帰りにアイスの買い食いができること。マイベストアイスことジャイアントコーンにチョコミントが限定で出ている!むしゃむしゃ食べながら夜道を歩いているとたいていのことは許せる気持ちになる。ジャイアントコーンは味と値段のバランスが素晴らしく、特に青いやつがさいこうだ。チョコミントはおいしかったけど、ちょっと高いんじゃない?しかし干支が3周しても人は買い食いするのだな。

本屋、はじめました―新刊書店Title開業の記録

本屋、はじめました―新刊書店Title開業の記録

 

 

いま手の中にあるもの

10年ぶりくらいに脳貧血で倒れる。しかも電車の中で。完全に意識が飛んだ。出勤途中だったので、そのまま電車を降りてしばらく休んでから帰宅した。まあそういうこともある。

西川美和のエッセイ集が出ていたので、喜び勇んで購入。やはり素晴らしい。作家としては卓越した比喩表現をもつひとだとおもう。それは映画監督としていろいろなものをとてもよく見ているからなのかもしれないけど、文章の仕事ぶりもたまらなく心を揺さぶられるのだ。それにしても、引用される本木雅弘のメールの文章の無邪気なこと。こちらも別の意味で心をつかまれる。『永い言い訳』、もういちど小説を読んでそして映画を見てみよう。

映画にまつわるXについて2

映画にまつわるXについて2

 

 

忘れちゃだめだよ

佐藤正午の新刊が出たぞ!

『月の満ち欠け』はひさびさの書き下ろし。物語の骨格はストレートな恋愛小説なのだが、外側の語り手から始めるあたり、佐藤正午らしい韜晦と自意識にまみれていてたまらない。もちろん枠の外側からでなければ語りえないという小説的な技法に自覚的であるからこそ選びとられるかたちなのだけれど(『鳩の撃退法』も『Y』も『ジャンプ』も『身の上話』も『アンダーリポート』も)、やはり渦中の人物に語らせないというのは自意識のなせる業だとおもう。

切れてしまった気持ちを立て直しきれないまま働いている。定期券の更新をするのも腹が立ってPASMOをへし折ってしまいそうなくらいだ。

月の満ち欠け

月の満ち欠け

 

 

夜の芝生の上に

帰り道ラジオから流れてきた「流動体について」、何もかもふっとばしてしまうほどの強い力でつかまれて、涙が出てくるのを止められなかった。悲しいのとはちがう、うれしいのでもない、ただただ心の中がぜんぶ揺りうごかされて、あふれでるように涙が出てくる。とてもとても美しい音楽だ。

カルテット、終わってしまった。終わってしまったよ。どの回も素晴らしかったのだけれど、松たか子宮藤官九郎のふたりでやった回はとりわけ身にしみてつらかった。めずらしくよくドラマを見ていた数ヶ月だった(カルテット、嫌われる勇気、ダウントン・アビー、刑事フォイル)。4月からどうしようかな。

新宿に行く用事があったので、いくつか書店を見てまわる。どこもあまりぴんとこないなあ……。もう文脈棚とかセレクトショップ的なお店はいくつもあって、どこを見ても新しい発見がないような感じがする。もちろん、いま現在流通にのっている書籍で、という限定があるから、差別化はなかなか難しいとおもうが、それにしてもどこも同じ本を置いてるよ。書店の作り方がもう一歩前に進む時期にきているんだとおもう。

久しぶりに上野動物園に行く。マヌルネココツメカワウソが大好きなのだが、マヌルネコはほぼほぼかわいいネコなので、家で愛猫を見ればいいじゃんと言われそう。でもかわいいんだ。コツメカワウソもめちゃくちゃかわいいんだ。

読んだ本では、芥川賞候補になった岸政彦の『ビニール傘』がとてもよかった。この人にエッセイではなく小説を書かせた編集者は実に慧眼だとおもう。小説を書き続けるのはなかなか難しいかもしれないが、今後も期待したい。

異動の話は社内政治的に消えてしまった。それは仕方がないこととしても(かなりがっかりしたけど)、その後の上司の対応に納得できず、まったく気持ちがおさまらない。

ビニール傘

ビニール傘

 

 

それはただのインク

ものすごく暴力的な夢をみた。まじでそういうの苦手なので、夢をみながら、いやだなあいやだなあとずっとおもっていた。たぶん『お嬢さん』を観にいくか迷っていて、パク・チャヌクは『オールド・ボーイ』しか観たことないなあとか思いだしていたせい。

体調があまりよくなくて、休みの日もどこかに行くかどうしようかぐずぐずしているうちに終わってしまうことが続く。いまのところに引っ越してから一年強、のどからの風邪をひいて声が出なくなることが何度もあって、さすがに加湿器を買わなきゃいけないんじゃなかろうか、とおもっているうちに春。

サラ・ウォーターズ『荊の城』、第二部に入った瞬間に物語が反転するの、すごく好きなんだけど(『ゴーン・ガール』も大好き)、結局どロマンスに回収されるのもたまらない。「わたしがあなたにしてほしいことがたくさん」というラストの台詞に、きゅんきゅんしてのたうちまわる。

読書会が終わったので、恩田陸のおさらいを再開。『劫尽童女』を読んでいて、これはディーン・R・クーンツのあれ、文春文庫で出てた犬のあれだな、とかおもっていたのだが、あとがきによるとキングの『ファイアスターター』とのこと。でもクーンツも読んでるよねぜったい。犬のあれは『ウォッチャーズ』だった。

ずっと希望を出していた異動の内示が出て、とてもうれしい。以前の上司の下に戻ることになるのもうれしい。とにもかくにも春である。

荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫)

荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫)

 
荊[いばら]の城 下 (創元推理文庫)

荊[いばら]の城 下 (創元推理文庫)

 

 

三月ははるかなる茫洋

愛猫にテーブルの上に積まれた本をすべてなぎはらわれ、よりにもよって『蜜蜂と遠雷』のカバーが破れてしまったが、もうそれはわたしが悪いに決まっているので、やるせない気持ちをぐっとのみこむ。本に吐かれたりスピンを食われたりもするけれど、悪いのはぜんぶわたしだからさ……。

『ラ・ラ・ランド』と『ナイスガイズ!』で勝手にゴズリング二本立て。さほど好きなタイプの顔ではないのだが、なんというか技術力が高くて我の薄い演技がハマる。

 アンソニー・ドーアの『すべての見えない光』、はじめのほうはなんか小川洋子みたいだなあとかぼんやり読んでたけど、ラストの息が詰まるような展開が素晴らしい。ぜったいに一緒に幸せになることはできないふたりの束の間の出会いがほんとうに美しく、電車の中でこらえきれずぐずぐずと泣きながら読んだ。Twitter文学賞もとったようで、わたしももうすこし早く読んでいればこれに投票したとおもう。

すこしずつ春めいてきていて、ようやくダウンコートを脱げるのはうれしいが、冬から春にかけては心身ともに調子が悪くなるので気が重い。

すべての見えない光 (新潮クレスト・ブックス)

すべての見えない光 (新潮クレスト・ブックス)