読書週報 7/29〜8/4

暑い、我が家のエアコンは設定温度27度で24時間フル稼動である。18歳の老猫もいるし(もともと人間のベッドでしか寝ない、涼しいところに移動するというような知恵があまりないかわいい猫である)、電気代くらい払ってやらぁ、という意気であるが、仕事がまたしても修羅場に突入してしまいあまり家にいる時間が長くないのがかなしい。そのかわり休日は家から一歩も出ずに快適に眠っている次第。

近しい人に対して、好悪の感情をいだくのは理解できるのだが、漠然とした概念や国とかそういうあやふやなものに対して好き嫌いをいうことがどうしても理解できない。たぶんわたしが明確な帰属意識をもっておらず、寄って立つものもないからなのだろう。寄る辺なきことこの上ないが、寄る辺なきことを引きうけることが人として望ましい態度であるとおもう。

勢いこんで夏の課題図書を決めてはみたものの、とてもすべてを読める気がしない。『八月の光』は昨年読もうとしてすこし読んでそのままになっていたので、今年こそは。

ハン・ガンの『すべての、白いものたちの』を読む。明確に好きだといえる小説家にひさびさに出会った。ただ読んでいるだけで、たまらない気持ちになる。まだいくつか未読の邦訳作があるのがうれしい。

今週の休肝日はゼロ。

読書週報 7/8〜7/14

ハン・ガン『ギリシャ語の時間』がとてもよかった。『菜食主義者』はひっそりとしかし激しく追いつめられていくひとたちの話で読みすすめるのに息苦しさがあったが、こちらはどうにもならないものごとに諦めではないやりかたで向かおうとするひとたちが描かれており、帯にある著者自身の「この本は、生きていくということに対する、私の最も明るい答え」という言葉がすべてをあらわしているとおもう。文章がきれいで、いつまででも読んでいたい本だった。

今週の休肝日は1日でした。

スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』は、ゼンデイヤめっちゃかわいい、ゼンデイヤがすべて、全人類が恋に落ちる映画だった。ときめきをありがとう。

映画を見たあとに大きい本屋さんに行って本をたくさん買う、というのがわたしの黄金コースなので、映画を見たあとに大きい本屋さんでたくさん本を買った。一度にたくさん本を買うとめちゃくちゃ満たされるので、もはや本を読む必要さえうすくなっていく。そういえばボーナスが出ていたが、ただでさえ少ないところからさらに税金がひかれていてまじでつらい。はたらけどはたらけど、である。啄木は働いてなかったらしいけど。

ひさしぶりに直木賞候補作を読もうかなとおもって朝倉かすみ『平場の月』を読んだ。中年・地方都市のままならぬ恋は身をよじるほどのせつなさだが、恋愛小説はなぜか共感性の高さで作者も読者も出来をはかられているようで、どうしても一歩引いてしまうのであった。作品に罪はない。直木賞をとってもおかしくないが、山本周五郎賞とダブルはあまりないのだっけ。

読書週報 7/1〜7/7

お酒が好きで年間364日くらいはのんでいるのだが、久しぶりに休肝日を設けた。のまないならのまないで眠ってしまえばいいので、さほど苦でもない。むずかしいのは適度な飲酒というやつだ。幸か不幸か比較的アルコールに強いので、のみはじめるとなかなか止められないのである。途中でソフトドリンクに、とかいう理性はまったくはたらかない。もともと誘惑に弱く自律できない人間が、アルコールにのみ自制心を発揮できるわけがない。ワイン1杯だけ、なんていうことができない以上、きっぱりとのまない日をつくって健康を守るしかない。しかし休肝日はよく眠れる、寝起きが違うなどと聞くが、個人的には眠れすぎて起きられないし日中もずっと眠いので困りものである。

徳間文庫から毎年出ている短編ベストコレクションを読む。ふだんはすすんで手にとらない作家を読めるのでありがたい。初めて読んだ作家のなかでは清水杜氏彦がよかった。

友人宅に招かれて乳児を拝見。知ってはいたが頭蓋骨がつながっておらずうっかりさわってしまって慄く。人間とはなんと死にやすいかたちで生まれてくるものなのか……、それなのにこんなに人間が増えたのか……。

電車の中で読めるものを、とおもって購入した芦沢央『許されようとは思いません』、まさしく電車の中で読むのにちょうどよいような達者な書きぶりの短編集だった。求めているものにぴったりくる本を選べるととても気分がいい。すこしまえは未読の本の山を見つめて、なにか読まなければ、でもなにもえらべない、なにをえらんでもまちがっている気がする……、と途方に暮れていたのだから、やや回復したのかもしれない。

内澤旬子の『ストーカーとの七〇〇日戦争』は、おもしろくて一気に読んでしまったのだが、別れ話がこじれる初手から、内澤さん、そりゃまずいよ!とおもってたいへんハラハラした。

それにしても仕事が忙しく、いやいちばん忙しかったときに比べれば忙しくはないのかもしれないが、精神的な負荷が高くなかなか難儀である。そうなると食べるものに気を配るのがめんどうになり、おそろしいことに日曜日に摂取した野菜は晩ごはんのチキンラーメンにかけた青ネギだけであった。人間レベルが低下している。

白鯨記、前半戦

今年の夏は『白鯨』を読むことにした。理由は特にない。

七月某日、挫折を防ぐために、友人たちに『白鯨』読むよ、と宣言する。みんな、つらいところは飛ばせばいい、さくさく読めるところもある、などと言っている。八月中に読みおえたいが(そのあと読書会の課題本が待っている、そっちも上下巻だ)、なんとかなるだろうか。

七月某日、序文を読む必要はあるのだろうか……?寝落ち。

八月三日、佐藤亜紀『スウィングしなけりゃ意味がない』おもしろい。ようやく本文に入る。寝落ち。

八月七日、休日に職場に行っていくつか仕事を片づける。帰りに餃子とビール。イシュメールは宿屋にたどりついたようだ。佐藤正午『カップルズ』、久しぶりに読んだが良い。眠れないので『行き先は特異点』もぱらぱらと読む。SFをあまり読まないので、最近の短編をいろいろ読めるのはありがたい。

八月八日、イシュメールは同衾を頼まれた銛打ちについてぐずぐず言っている。宿屋で見知らぬ二人が同衾ってありえるのか。寝落ち。

八月十日、イシュメールと銛打ちクイークェグがいきなりBL。やばい。

八月十一日、暇だったのでにこみ亭のくだりで出てきた鱈の煮込みを想像で作ってみる。おいしかった。

八月十二日、誘われて鯨を食べにいく。なんかこのあと鯨油を絞って手がぬるぬるしてみんなでぬるぬるしあって、みたいなところがあると聞いてモチベーションが上がる。鯨は馬っぽさと鮪っぽさの中間の味だった。

八月十六日、仕事が忙しく、なかなか読み進められないしエイハブはぜんぜん出てこねーし。寝落ち。

八月二十一日、鯨学の章で沈没。つらいので秋山瑞人ミナミノミナミノ』を読む。ちょうおもしろい、でも続きない、やはりつらい。

八月二十五日、これは休みの日に一気にやっちゃうしかない、と決めて読む。エイハブがわっしょいしたり、スターバックが無謀に鯨を追ったりして、盛り上がってきた。勢いで上巻を読了。『キャッチ=22』を読まなければいけないので、『白鯨』はいったんお休み。嗚呼、夏が終わる……。 

白鯨 モービィ・ディック 上 (講談社文芸文庫)

白鯨 モービィ・ディック 上 (講談社文芸文庫)

 

 



『月の満ち欠け』以前に直木賞を授賞すべきだったいくつかの佐藤正午作品について

佐藤正午様、直木賞受賞おめでとうございます。デビューから30年以上たつわけですが、2年前『鳩の撃退法』にようやく文学賞が与えられたとき、いやもういいんだよそういうのは、このまま無冠の帝王でいたってわたしはずっと新作を待ちつづけるし、そういう読者はいっぱいいるんだから、だいたいいまさら賞をあげるなんて遅すぎるんだよ、直木賞なんて4回くらいもらっててもおかしくないんだから、とひねくれていたわけですが、それはそれとして山田風太郎賞直木三十五賞も、受賞されたことは一ファンとして素直によろこばしく、心の底からうれしくおもいます。ほんとうにほんとうにおめでとうございます。

受賞作の『月の満ち欠け』は文句なく素晴らしい、佐藤正午作品のひとつの到達点ですので、まだの方はぜひお読みください。語りのうまさと緻密な構成でありえない設定を読ませる佐藤正午らしさに満ちた小説です。

月の満ち欠け

月の満ち欠け

 

 

さて、長らく無冠だった佐藤正午、キャリアの中にはベストセラーも映像化された作品もありますし、なぜこれが賞の候補にさえならなかったのかしら、と疑問におもうような傑作もあります。というわけで、『月の満ち欠け』の次に読むなら、やはり『Y』からはじめましょう。

ケン・グリムウッドの『リプレイ』というタイムループものの名作があるのですが(未読の方はこちらもおすすめ)、『Y』はループして何度も人生をやりなおす主人公、ではなく、その友人の視点で語られる物語です。ありえたかもしれない別の人生では、もう名前も顔も思い出せない高校時代の同級生と親友で、彼はまた運命の分岐点に戻るのだという……。ある決定的な事故が分岐点となるわけですが、情報の出しかたが実にたくみで、ページをめくる手を止まらせない小説巧者ぶりを堪能できる一冊です。ぜひお休みの日に読んでください。 

Y (ハルキ文庫)

Y (ハルキ文庫)

 

 

お次は15年前に起きたふたつの殺人事件を描く『アンダーリポート/ブルー』か、ドラマにもなった、もしみんなで買った宝くじが当たったらどうする、からはじまる『身の上話』がおすすめです。どちらもミステリーとしても読めますが、語り手の立ち位置に注目して読むとこの小説家のうまさがわかるはずです。『アンダーリポート/ブルー』は絶対に小学館文庫で読んでください。後日談としてくわえられた「ブルー」があるとないとでは読後の印象がまったく変わります。あと伊坂幸太郎の解説がいいです。

アンダーリポート/ブルー (小学館文庫)

アンダーリポート/ブルー (小学館文庫)

 
身の上話 (光文社文庫)

身の上話 (光文社文庫)

 

 

『鳩の撃退法』もはずせない一作。津田伸一の名前を見ただけで、やったやった津田先生こんどはどんな自業自得のひどいめにあうのかな、と佐藤正午ファンはわくわくするものなのですが、期待を裏切らない落ちぶれっぷりでやっぱり津田伸一はこうでなくちゃ、というのはともかく、とある一家の失踪から二転三転、読者は上巻は翻弄されまくり、下巻は回収される伏線にうっとり、そしてあんなにうざかった津田伸一になぜかぐっときてしまう、そんな小説を読むたのしみがみっちりと詰まったお得な上下巻です。津田にもうすこしつきあってもいいかもしれないとおもえたら、『5』を読んでください。わたしの佐藤正午裏ベストです。

鳩の撃退法 上

鳩の撃退法 上

 
5 (角川文庫)

5 (角川文庫)

 

 

最後に、佐藤正午が小説を書くことをどのように考えているのかがうかがえる『小説の読み書き』をおすすめしたいとおもいます。『雪国』『銀の匙』などなど数々の名作を相手どり、小説家ならではのこまかすぎる視点をもってべりべりと作者の意図をはがしてみせ(時々間違える)、小説を読む技術を背中で見せてくれます。これを気に入った方には、『鳩の撃退法』から『月の満ち欠け』までのあいだの創作の舞台裏を見せてくれる『書くインタビュー』のシリーズをおすすめしたい。嫌味と自意識にまみれながら、まれにまじめな創作秘話が読める実にたのしい書簡集です。

小説の読み書き (岩波新書)

小説の読み書き (岩波新書)

 
書くインタビュー 1 (小学館文庫)

書くインタビュー 1 (小学館文庫)

 

 

あれもこれもぜんぶいいところがあるからぜんぶいいって言いたいところだけど(『永遠の1/2』久しぶりに読んだらやっぱりデビュー作にはすべてがあるなとおもったし、エッセイなら『ありのすさび』か『小説家の四季』もいいし、ギャンブル好きなところもいいから『Side B』も、とかもうとまらない)、このへんにして。

最後に、何度言っても足りませんが、ほんとうにおめでとうございます。今後のさらなるご活躍を心よりお祈りいたします。

さようなら、すべての夏よ

異動して職場に埋もれるように生きている。休日は猫にまみれながらひたすら寝るか仕事しにいくかで、あれ、休日とは……?担当分野が10年以上やってきた文庫から文具にかわったので、要領がつかめず右往左往。

直木賞候補が出て、佐藤正午佐藤正午!!となる。受賞するといいのだけれど、してもしなくてもわかっているよ、いつも素晴らしい小説を書いていること、ものすごくまじめに小説について考えていることを。小説も素晴らしいが個人的には『小説の読み書き』がとても好きで、唯一何度も読んでいる新書だ。

映画館で不愉快なおもいをする。しかし図書館でも電車でもスーパーでも不愉快なことにはであうもので、どのように対処するかということを考えなくてはいけないお年頃なんだろうな。わかってはいるが、わたしは社会に向き合うのがこわい。

小説の読み書き (岩波新書)

小説の読み書き (岩波新書)

 

 

一年でもっとも美しい季節

山本周五郎賞候補作と三島由紀夫賞候補作をいくつか読んでみる。町屋良平『青が破れる』が拾いものであった。デビュー作らしい瑞々しさがあり、文藝らしいクセもあり、今後伸びていってほしいなとおもう。受賞したのは宮内悠介と佐藤多佳子。『明るい夜に出かけて』はハガキ職人が主人公の物語で、小学生の頃からずっとラジオを聞いているわたしはなんかぐっときてしまった。小学生の自分に、25年たっても伊集院のラジオ聞いてるよ、って言ってもぜったい信じないとおもうけど。

異動の内示をうける。会社は理不尽なものでいろいろおもうところはあるが、とりあえず職場がとても近くなるので、それは素直によろこんでいる。期待と不安に満ちた五月である。

青が破れる

青が破れる

 
明るい夜に出かけて

明るい夜に出かけて