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四十肩とともに来たる一月中旬

肩が痛い。肩というか背中の肩甲骨あたりが痛い。おそらく四十肩。腰を痛めたときにも感じたが、とにかくくしゃみが地獄である。加齢。

早川書房の異色作家短編集は大学生の頃にぜんぶ読んだのだったが、なぜか最近になって文庫化されているものがあるので、ひさしぶりにシャーリイ・ジャクスンの『くじ』を手にとった。表題作はものすごく有名かつ傑作なので黙って読んでほしいのだが、個人的には「背教者」という短編がとても心に残った。何もかもがうまくいかないような気がする朝、主人公の主婦に知らされたのは、飼い犬がご近所の鶏を殺したといううわさばなしで……、田舎のコミュニティの悪意、無神経な夫、残酷な子ども、あまりに無力な自分自身、とにかくすべてが息の詰まるような追いつめられ感に満ちている。

渋谷らくごに春風亭昇々を聞きにいく。1時間たっぷり笑った。新作と古典の区別もつかないくらいの初心者だが、何となく好きな感じの噺家さんがわかってきた。たぶん小説や映画の好みと変わらない。しかし自分の好きなものについてうまく言葉にできないのが、もどかしい。

 直木賞芥川賞候補作を読むのは、もちろん楽しいからに決まってるんだけど(ふだん手にとらないジャンルや作家の小説にふれるのは、たとえ読んでみて好きになれなかったとしても、よい体験だとおもう)、もうひとつ、本屋さんらしい書店員でいたい、いたいというか、お店にそういう人がひとりくらいはいるべきではないのか、という気持ちもあってやっている。その店で直木賞受賞作をひとりも読んでいないとしたら、なんというか、とても貧しい気がする。そりゃ書店は衰退するよな、売ってる人が買ってないし読んでないんだから、と。何はともあれ、恩田陸山下澄人の受賞はすなおによろこばしい。どちらもよい小説だった。

肩の痛みは三日ほどでおさまった。

 

くじ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

くじ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 
蜜蜂と遠雷

蜜蜂と遠雷

 
しんせかい

しんせかい

 

 

一月上旬は朦朧と過ぎる

年が明けても昨日とまったく同じように出勤しなければならない。

今年の1冊目は年末からすこしずつ読んでいたブライアン・エヴンソンの『ウインドアイ』。『遁走状態』の評判は聞いていたものの、ここ数年あまりクレストブックスに心が動かなくなっていたのでスルーしていた。『ウインドアイ』はじめっとしたバリー・ユアグローみたいで、なるほど柴田元幸が翻訳するだろうなと思う。怪異譚の類があまり得意ではないので、全体としては、うーむきもちわるこわい、という感じなのだが、不条理な話だけにとても頭に残る。これのせいかどうか、初夢では、殺人が起きたらしい無人の家を探索するはめになった、なぜか仔猫を抱いたまま。

ギンレイホールで『シング・ストリート』『裸足の季節』を観る。どちらの映画も服を着たまま海に入るシーンがあり、これが若さというものか、と感じ入る。

友人との新年会で、買った本をどれくらい読むか、みたいな話が出る。そもそも買うこと自体が楽しみであり物が増えるのは嫌なので会計をした瞬間に電子書籍になればいい、というラディカルな友人がいる一方、一冊読んだら一冊買う、という真っ当すぎる友人もおり、わたしはどちらにも共感できないのであった。

恩田陸の『七月に流れる花』『八月の冷たい城』は2冊で美しいセットになった物語。緑とピンクの組み合わせはもっとも好きな色あい。『麦の海に沈む果実』を思わせるようなお話なのだが、ミステリーランドメフィストの流れを汲んだ叢書であることを考えればそれも道理。恩田陸の描く少年少女はほんとうにまぶしいほどにきらめいている。

日曜日、以前から行ってみたかったfuzkueへ。とてもよい雰囲気で、これをたもつのはいろいろ苦労があるだろうな、と思う。お店の本棚に置いてある本が、ああなんかわかる、わかるよ、という感じなのもよい。次はお酒を頼んで長居したい。

今年の目標、みたいなことをやはり年明けは考えてしまうけど、やりたいこと、とか、こういう感じにしていこう、というのはあっても、目標となるといまひとつぴんとこない。健康で充実した一年が過ごせればいいな、と思う。年々ふつうのことを願うようになっていく。

 

ウインドアイ (新潮クレスト・ブックス)

ウインドアイ (新潮クレスト・ブックス)

 
七月に流れる花 (ミステリーランド)

七月に流れる花 (ミステリーランド)

 
八月は冷たい城 (ミステリーランド)

八月は冷たい城 (ミステリーランド)

 

 

2016年に読んだ本

2016年は180冊くらい読んだようです。読書傾向としては国内一般小説が多め、あとは翻訳ミステリー、ノンフィクション、新書をちょっとずつ読んだかなという感じ。相変わらず方向性の定まらない読書をしています。海外文学をあまり読まなかったのが心残り。来年はガイブンを強化していきたいです。

では今年読んだ印象に残った本を。

 

『大きな鳥にさらわれないよう』川上弘美

今年読んだ日本の小説では圧倒的なクオリティの高さ。滅びゆく人類の営みがやわらかな文体で少しずつつづられていく、でもこれはいったい未来の話なんだろうか?わたしが生きているいまのことなのかもしれないし、もしかしたら遠い昔のことを語っているのかもしれない。ゆるやかに円をえがく構造も見事。

大きな鳥にさらわれないよう

大きな鳥にさらわれないよう

 

 

『自生の夢』飛浩隆

飛浩隆十年ぶりの作品集とあっては胸が高鳴らずにいられましょうか。まったく期待を裏切らない素晴らしい短篇ばかりで溜息しかでない。すべてを凌駕するイマジネーションの奔流にのまれるのがもはや身体的な快楽。この人と同じ時間に生きていてほんとうに幸運だとおもう。『空の園丁』、たのしみに待っています。

自生の夢

自生の夢

 

 

『美しい距離』山崎ナオコーラ

癌の妻と看取る夫というストレートなテーマをこの人が書くとこうなるのか、という。もちろん夫婦や家族の関係の物語なんだけど、個人的に心に残ったのはお仕事小説としての一面だった。看病する夫は当然仕事を続けているし、病をえて入院している妻もまた仕事を通じて社会とかかわりつづけようとしていて、そこを閉ざしてしまわないようにすることがとても大切に書かれている。亡くなっていく人が遠くなっていくことを、美しい距離、と表現する感性がとても好きだ。

美しい距離

美しい距離

 

 

『彼女がエスパーだったころ』宮内悠介

2016年も活躍が目立った宮内悠介。タイトルそのまんまの『スペース金融道』(痛めつけられる主人公が不憫かわいい)、囲碁を題材にとった『月と太陽の盤』もよいですが、ひとつ選ぶならこちら。疑似科学というややもするとどこからも反発をくらいかねないテーマを実にたくみに扱って、しかも最後はちょっとほっこり。ベストは「ムイシュキンの脳髄」かな。芥川賞とれるといいですね。

彼女がエスパーだったころ

彼女がエスパーだったころ

 

 

『蜜蜂と遠雷』恩田陸

恩田陸の書く直球の音楽青春小説。コンテストの舞台裏というと、どろどろの人間関係と足の引っぱりあいが想像されるところですが、この小説では葛藤はあるものの基本的にみな明るく音楽を愛しまた音楽に愛されているキャラクターばかりなので、非常にさわやかに気持ちよく読み終えられて、万人におすすめできる一作。直木賞とれるといいですね。

蜜蜂と遠雷

蜜蜂と遠雷

 

 

『尻尾と心臓』伊井直行

伊井直行もまた寡作なので、本が出るたびに熱い気持ちで読んでいるけど、話自体は地味すぎてカタルシスのない会社員小説なので、とにかく人にすすめにくい。でもおもしろいんだよ。いわゆる会社員をやったことがないので、リアルな他人の仕事をのぞいてる感覚が楽しかったり、でもちょっとだけわかる部分があったり。『会社員とは何者か?』とあわせて読むといいでしょう。

尻尾と心臓

尻尾と心臓

 


『浮遊霊ブラジル』津村記久子

とにかくこの中の「地獄」がわたしは大好きで、タイトルどおり地獄に落とされた女性の話で、その地獄が物語消費しすぎ地獄ということで様々な苦行をやらされるんだけど(一日に何回も殺されたり)、監視員の鬼が不倫問題に苦しんでたりしてその相談に乗ったりとか解決しちゃったりとかで、地獄意外と楽しそうじゃん。津村さんこれ楽しんで書いたんだろうな。

浮遊霊ブラジル

浮遊霊ブラジル

 


『キャロル』パトリシア・ハイスミス

もうこれは映画とあわせて読んでほしい1冊。物語がすすむにつれてキャロルとテレーズの関係もうつりかわってゆく、ほんとうに見事に美しい恋愛小説。映画は、ケイト・ブランシェットの背中がとてもいい演技でした。

キャロル (河出文庫)

キャロル (河出文庫)

 

 

『黄昏の彼女たち』サラ・ウォーターズ

こちらも女性同士の恋愛がテーマなんですが、ふたりの関係がじれじれとすすんでいく上巻とそれが崩壊していく下巻がもうどちらもたまらない。身もだえしながら読みました。これも映画化してほしい。ミシェル・ドッカリーとエマ・ストーンとかはどうでしょう。

 

小説以外の本もすこし。

『村に火をつけ、白痴になれ』栗原康

今年読んだ中でもっとも衝撃的だった1冊。伊藤野枝の生き方はもちろん、評伝をこんなに自由な文体で書いていいのか、あとこのあとがきはアリなのか、何でこの本が岩波書店から出たんだ、などなど。パンチライン満載の本ですが、わたしがもっとも好きなのは「お金がないならもらえばいい」です。読むと元気がでるよ。

村に火をつけ,白痴になれ――伊藤野枝伝

村に火をつけ,白痴になれ――伊藤野枝伝

 

 

『プリズン・ブック・クラブ』アン・ウォームズリー

『戦地の図書館』モリー・グプティル・マニング

刑務所と戦場という、ある意味どちらも極限の状態で本はいったい何の役に立つのか、本が好きな人にはぜひあわせて読んでほしい2冊。 本を届けるために尽力する人々の物語にもぐっとくる。

プリズン・ブック・クラブ--コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年

プリズン・ブック・クラブ--コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年

 
戦地の図書館 (海を越えた一億四千万冊)

戦地の図書館 (海を越えた一億四千万冊)

 

 

それでは皆様、よいお年を。来年もよい本にたくさんであえますように。